比較的自由に働ける個人事業主は、会社員以上の自己責任の世界です。
将来に対して何の保証もなく、常に不安を抱えながら働き続けなければなりません。
もしも不安から目をそらし欲望に負けたら、簡単に個人事業主として破綻して転職やバイトをしなければならなくなるでしょう。
この記事では、個人事業主が抱きやすい不安と対策についてお伝えしていきます。
個人事業主として存続しつづけるためにも、事業主特有の不安と向き合うスキルを身につけてみてください。
個人事業主が抱きやすい将来の不安と対策
ここでは、個人事業主が抱きやすい将来の不安とその対策についてお伝えしていきます。
不安①:収入の不安定さ
個人事業主の最大の不安は、収入の不安定さです。
たとえ今稼げていても、その契約がいつまでも継続する保証はどこにもありません。
顧客の気分や競合他社、世間の流れ次第で簡単に仕事が失われてしまうリスクが常にあります。
例.収入の不安定さによる不安
・今の仕事がいつまで続くか分からない
・収入を上げるには初期投資が欠かせない
・大きく稼げるときもほとんど稼げないときもある
・稼げるときは「今のうちに稼ごう」と無理をしようとする
・稼げないときは「現状を打破しよう」と無理にがんばり続ける
収入の不安定さによる不安を解消するには、「稼げなくてもなんとかなる」という安心感を持ち続けることがもっとも重要です。
個人事業主である以上売上にムラが生じるのは当たり前であり、売上の変化に一喜一憂していてはすぐに燃え尽きてしまいます。
「仕事がなくなる=破産」というような認識をしていると、危機感から焦りが強まって売上第一主義になり、むしろ空回りしてしまうでしょう。
- 収入の不安定さを解消する→大切な施策ではあるが個人事業主である以上完全には解消できない
- 収入の不安定さを受け入れる→余裕を持ち続けられるようになりメンタルが安定する
このときに大切なのは「稼ぐ目的」です。
「稼がなくても生きていける」という余裕は、働くことへの意欲を低下させてしまいます。
その状態で意欲的に働くには、「生きるため」以外の強い動機となる目的を持たなければなりません。
- 生きるために稼ぐ→稼がなくても生きていけるなら働く必要はない
- 自己実現のために稼ぐ→お金ではなくやりたいことのために努力する必要がある
収入の不安定さに不安を抱いたら、まずは「稼がなくても生きていける」という安心感を手に入れてください。
そして、その状況でも自分が前進するに足る目的を見つけることで、無理せずに全力で働けるようになります。
例.稼がなくても生きていける安心感を手に入れる方法
・いざというときの働き口や住居を見つけておく
・親や友人などのセーフティーネットを構築する
・生活保護などの国によるセーフティーネットを理解する

不安②:スキルの陳腐化
現在有用であっても、いつかは陳腐化して稼げるスキルではなくなります。
最近では人工知能によりスキルの陳腐化が加速しており、強い危機感を抱いている人は少なくないでしょう。
★スキルの陳腐化
・代替手段の登場:「人」から「機械」へ、「日本人」から「外国人」へ
・必要スキルの変化:「自分の頭を使って文章を書く」から「AIを使って文章を作る」へ
スキルの陳腐化による不安を解消するには、これまでに培った経験が無価値になるわけではないと理解することが重要になります。
今あるスキルと新たなスキルの掛け合わせにより、市場価値のある新しい働き方が身に付けられるでしょう。
市場価値を生むために働き方を変える必要があっても、今までに培ったスキルがアドバンテージになるということです。
例1.生成AI登場によるwebライター
・今あるスキル:お客様の想いを言語化する、文章を作成する
・新たなスキル:人工知能を使って文章を生成する
・新しい働き方:人工知能を活用してお客様ごとの特色ある文章を短時間で作成する
例2.無人タクシー登場によるタクシードライバー
・今あるスキル:運転スキル、話を聞くスキル
・新たなスキル:言葉遣い、マナー
・新しい働き方:ハイヤードライバーや接客業
スキルの陳腐化があろうとなかろうと、停滞する人は排除されて、市場に適応できる人が稼ぎ続けられます。
「今の働き方が未来永劫続くわけではない」と絶望するのではなく、「今の働き方に必要なスキルを伸ばしておく」と未来に備えようとしてみてください。
身につけたスキルは、時代が変化しても活用できるものです。
市場価値のある新たな働き方ができるか否かは、「これまでに伸ばしたスキルや経験」が欠かせない重要なピースになります。

不安③:結婚相手との出会い
特にフリーランスのような個人事業主は、社会的信用が低い傾向があります。
将来性が不安定であると捉えられ、結婚相手としての候補にはなかなか挙がりません。
一家の大黒柱として期待される男性である場合は、なおさら結婚相手を見つけることが困難です。
★若い男性個人事業主への一般的な認識
・定職につけなさそう
・将来仕事がなくなりそう
・収入が不安定かつ少ないそう
・親や友人には紹介しづらいそう
・結婚したら仕事を手伝わされそう
・仕事とプライベートを混同させそう
将来結婚できるかという不安を解消するには、個人事業主であることが結婚できない理由ではないと理解することが重要です。
個人事業主であることは結婚しづらい理由の1つにすぎず、他の要因を解消することによって結婚できる可能性を高められます。
むしろ、その気になれば収入をコントロールできる個人事業主は、就職した時点である程度の収入が決まる会社員と比べて努力のしがいがあると言えるでしょう。
- 会社員:勤めている会社の収入や働き方に納得してくれる人を探すだけ
- 個人事業主:努力次第で異性に好まれやすい収入や働き方に変えられる
結局大切なのは、相手が不安に感じることを解消して、好まれる部分を強化することです。
会社員とはそのポイントが多少異なるだけで、やることはそう大きく変わりません。
収入面で相手が見つからない場合は、まずは「結婚候補に挙がりやすい個人事業主になること」という目標を達成してみてください。
例.結婚候補として評価されやすい個人事業主の要素
・人格面:清潔感、誠実さ、ユーモア、思いやり、愛情、包容力
・仕事面:収入の規模/安定性/将来性、仕事への熱意/目的意識
・生活面:家事の分担、子供の教育方針、親との関係性、貯蓄、趣味、器の大きさ

不安④:新築住宅ローンを組む
個人事業主は収入面での保証がなく、お金が絡む審査には厳しい立場にあります。
特に、大金が必要になる新築住宅ローンや賃貸などの審査は通りづらいことで有名です。
そういうネガティブな要因によって、将来を不安視して結婚や引っ越しに二の足を踏んでいる人は少なくないでしょう。
- 結婚への不安:住宅ローンが通らないかもしれない私と結婚する人なんているのかな
- 引っ越しへの不安:新しい住居を探すために状況をいちいち説明するのが面倒くさい
引っ越しや住宅ローンの不安を解消するには、具体的にどういう要件を満たせば審査が通るのかを理解するしかありません。
そして、その要件を満たせるだけの経済力と行動力を身につけることによって、「私はいつでも引っ越せる」という確信を持つことが重要です。
- 住宅ローンの主な要件:3期連続の黒字達成、税金や保険料に滞納がないこと、ローンに対する収入規模、頭金の多さ
- 賃貸契約の主な要件:家賃に対する十分な収入、個人事業主でも受け入れている物件であること
何が必要であるかは銀行/保険会社/不動産屋/大家によって異なりますが、コントロール可能なことは主に収入や貯蓄、事業計画程度です。
個人事業主であることは変えづらいため、「個人事業主が審査に通るために必要な要件」を具体化して、その要件を満たすことを目標にしてみてください。

不安⑤:死別した場合の金銭面
遺族に対する年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」があります。
しかし、厚生年金保険に加入できない個人事業主は遺族基礎年金しか支払われず、残された家族への負担はより大きくなりがちです。
たとえば、子供が1人いる配偶者には、個人事業主(月額8.7万円)、平均標準報酬月額が45万円の会社員(14.7万円)と約60%の違いがあります。
出典:https://www.orixlife.co.jp/guide/navi/survivors_pension.html
★遺族年金の受給期間
遺族基礎年金:18歳未満の子がいる配偶者のみが対象
遺族厚生年金:配偶者が再婚しない限りは基本的に一生涯受け取れる
出典
・https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-03.html
・https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html
いずれにしても残された配偶者も働く必要はありますが、この支払額の差によって働き口の候補が変わる可能性があります。
家事、子育て、家計の責任をすべて1人で持たなければならない残された配偶者にとって、この支払額の差は大きな違いになるでしょう。
この死別後の不安を解消するには、「万が一のことがあってもなんとかなるだろう」と考えられるような備えをしておくことが重要です。
そのためにも、「孤立しない家庭」「依存しない夫婦関係」「民間保険によるリスクヘッジ」を押さえておくことをおすすめします。
- 孤立しない家庭:親族や友人などとの関係性を構築しておく
- 依存しない夫婦関係:家事/子育て/家計などの責任を個別ではなく全体で分け合う
- 民間保険によるリスクヘッジ:団体信用生命保険(団信)や死亡保険への加入
不安⑥:退職後の年金の少なさ
厚生年金に加入できない個人事業主は、年金の受取額も会社員に比べて少ないです。
老後基礎年金のみしか受給できず、満額であっても月額6.6万円(令和5年度)しか支払われません。
これだけで生活するのは困難であり、会社員よりも老後に対する不安が強い傾向があります。
★会社員と年金の支払額
・月額20万円を支払われる条件:年収約715万円必要
・厚生年金加入者の平均年金受給額:14万3973円
出典:https://manekomi.tmn-anshin.co.jp/kakei/17558459
退職後のお金にまつわる不安を解消するには、今から老後に備えるしかありません。
物価は変動するため確実ではありませんが、最低限の生活ができる金額を算出してそこから逆算していくら足りないのかを計算してみましょう。
不足分の補填は、所得控除が可能な「小規模企業共済」「iDeco」「個人年金」を活用することをおすすめします。
- 小規模企業共済:積立型の退職金、年84万円の積立が上限
- iDeco:老後資金の準備を目的とした投資、年81.6万円が上限
- 個人年金:8万円以上は「所得税4万円+住民税2.8万円」の節税効果
出典
・https://e3-partners.com/clinic/column/cat02/628/
・https://www.manulife.co.jp/ja/individual/about/insight/column/article/column120.html
不安⑦:ライフイベントとの両立
個人事業主になると、仕事とプライベートの境界線が曖昧になりがちです。
働けば働くほど収入が上がりやすいというのもありますが、少しでもサボると目に見えて収入が激減するというのが大きいでしょう。
「いつ仕事がなくなるか分からない」という不安から、稼げるうちに稼ごうと仕事ばかりに専念してしまうのです。
例.仕事とプライベートの境界線が曖昧な人の特徴
・休みがない
・家族との時間よりも仕事を優先する
・仕事の愚痴や悪感情を家庭に持ち込む
ライフイベントと仕事を両立できないかもしれないという不安を解消するには、まずは仕組み自体を変えることが重要になります。
プライベートを満喫できる仕組みで十分稼げるようにならないと、いつまでも自転車操業のように不安から必死に働こうとしてしまうためです。
例.両立するための仕組み
・短時間で十分なお金を稼ぐ仕組み
・仕事における悪感情を発散するための仕組み
・電話やメールを受け取る時間を制限する仕組み
そのためにも、「自分が重視しているライフイベント」と「現在の状況」を明確にしてみてください。
今のままでそのライフイベントが実現できるのかを明確にすることで、抱えている不安の正体が分かり、取り組むべき仕組みづくりが見えてくるでしょう。
例.ライフイベント
・独身期:恋愛、趣味、友人との思い出作り、親孝行
・結婚期:出産、住宅購入、ハネムーン、結婚式
・子育て期:子供のイベント参加、家族での思い出作り
・老後期:新しい学び、孫を含めた思い出作り

不安⑧:キャリアパスの不透明さ
個人事業主は会社員とは異なり、今の仕事で成果を出せば出世できて収入が上がるというわけではありません。
キャリアは自分で築いていくしかなく、同じ働き方を続けていては収入もほとんど変わらないでしょう。
- 会社員:資格や成果次第で出世できて収入が上がる
- 事業主:稼ぐ仕組を変えない限り収入は大して上がらない
「どうすればもっと稼げるようになるのか」の答えが分かりづらいのが個人事業主です。
会社員よりもがんばりようはあるのですが、何をしたらよいのかは誰も教えてくれず、多くの人はどこを目指せばよいのかも不明瞭です。
キャリアの選択肢すら把握しづらいため、今後の事業の方向性について不安に感じやすい傾向があります。
- 会社員:役職がつけば収入が上がるからまずはそこを目指そう!
- 事業主:今よりも月商10万円上げるにはどうすればいいのだろうか。とりあえずもっと多くの時間働いて数をこなそう…
キャリアパスの不透明さによる不安を解消するには、ロールモデルを見つけることが重要になります。
「どのような働き方でどれほどの収入を得たいのか」の道しるべとなる人物を見つけることで、目的地や取り組むべき課題が明確になるためです。
キャリアについて悩んだら、憧れる人を探してみてください。
「私も〇〇さんのような仕事をしたい」という情熱が見つかれば、キャリアへの不安や迷いが晴れて前進することに集中できるようになります。

不安⑨:他者評価による家族への影響
「個人事業主」という肩書きだけで、自身や家族に何かしらの影響が及びます。
具体的には、主に以下の他者評価による影響を受けることになります。
- 仕事ぶりに対する評価:事業の評判=自分の評判
- 個人事業主であることの評価:会社員ではないアウトロー気味な存在
会社員であれば、窓際族であってもそれを周囲に知られるリスクはほとんどありません。
また、職種や収入に関わらず同族としてみなされやすく、会社員というだけで一定の信用を得られる傾向があります。
一方で個人事業主は、事業名や個人名を検索されると、どのような仕事や発信をしているのかが簡単にバレます。
外部の人の説明しづらい事業をしている人は、「何か怪しい仕事をしている」とあぶれ者として認識されることもあるでしょう。
- 親からの影響:将来への不安から過干渉気味になる。働かずに暇だと思われる
- 友人からの影響:話が合いづらくなり関係に亀裂が生まれる
- ママ友からの影響:奇怪な目で見られる。マウントを取られる。お金があると思われる
こうした他者評価による影響の不安を解消するには、「分かってもらうことへの期待」を手放し、「深刻な影響は多くない」と理解することが重要になります。
本当に深刻な問題だけに向き合い、対策や解決することだけに専念してみてください。
分かってもらうことへの期待を手放す:必ずしも理解されないし全員に理解される必要はない
深刻な影響は多くないと理解する:不安に感じる必要のある問題の選別

不安が強まる誤った3つの行動
ここでは、将来の不安を強めやすい行動についてお伝えしていきます。
誤解①:不安を考え続ける
感じ取ったすべての不安に対して、熟考しないようにしましょう。
不安の9割は起こらないと言われており、すべての不安に真正面から向き合い続けると多くの時間が無駄になるためです。
また、今考えても仕方のない類の不安もあり、問題について考えたから不安が軽減されるとは限りません。
不安を感じたら、その不安は何を訴えるサインなのかを検討してみてください。
そして、そのサインが今有効である、または今解決する必要のある問題である場合は、その不安について考えてみることをおすすめします。
★グルグル思考を手放す方法
1.A4の紙とペンを用意する
2.左上に大きく題名をつける(何について考えるのか)
3.5分間グルグル思考について文脈を気にせず書きなぐる
4..書きなぐった紙をびりびりに破きごみ箱に捨てる

誤解②:未来について考えないようにする
「どうせ考えても意味はないから」と未来について考えないようにしても、不安は大きくなるばかりです。
未来の正体が不明確では、悪い妄想ばかりをして不安が強まるためです。
「今できることに専念すること」は大切ですが、それはその努力の方向性が正しいときに限ります。
- 効果的な目先のタスクへの専念:未来を良くするための条件として今日のタスクを終わらせよう
- 非効果的な目先のタスクへの専念:未来はきっとよくなるからいつも通りに仕事を終わらせよう
努力の方向性を確かめるには、「延長線上の未来」について確かめてみてください。
「このままだとよくない」と判断したら、てこ入れをするための目標と計画を作ってみましょう。

誤解③:上辺の願望だけを叶えようとする
思考とは複層的なものです。
直感的な願望が必ずしも核心ではなく、実現しても不安がより一層強まることがあります。
- 直感的な願望:テストで高得点を取りたい
- 核心的な願望:親からの愛情が欲しい
- 直感的な願望実現による不安の増大:高得点だったのに親の反応がなかった。私に興味ないんだ…
不安を解消するために行動することは大切ですが、対処すべき問題を見誤ってはなりません。
不安を感じ取ったら一度立ち止まって「思考の核心」を検討してみてください。
「核心となる願望から生み出される不安」を内省により明らかにすることで、取り組むべき問題や行動が分かり、不安を小さくすることができるでしょう。

まとめ
個人事業主が抱えやすい将来の不安は、主に次の2つに分けられます。
- 仕事面:収入、スキル、キャリア
- プライベート面:結婚、家族関係、ローン、周囲の目、老後の金銭問題
これらの不安を軽減するには、主に次の行動が有効です。
- 老後の備えをする
- 稼ぐ力を磨き続ける
- 理想を叶えるための行動を続ける
ただし、不安の正体を掘り下げてみると、実は異なる原因であることもあります。
強い不安を感じたら「恐れている未来」を言語化して、不安の核心を探ってみてください。
本当に対処すべき問題を明確にしない限り、どんな行動をしても一時しのぎにしかならないでしょう。
自分1人で内省が難しい場合は、コーチングやカウンセリングのような内省を支援するプロに相談することをおすすめします。
