目標達成を目指すときに立ちはだかる壁として「先延ばし癖」が挙げられます。
「今できるけど後で実行する」と選んでしまい、締め切りぎりぎりになって慌てた経験は多くの人があるのではないでしょうか。
先延ばし癖で得をしてしまった場合は、同じような行動を取ってしまいがちです。
どれほどワクワクした理想や目標を設定しても、実行がおろそかになり実現を妨げてしまいます。
この記事では、先延ばし癖を改善する方法についてお伝えしていきます。
先延ばし癖の改善は、人間関係、仕事の業績、自己成長などあらゆる領域での利益につながるので、ぜひともお読みください。
先延ばし癖の2大原因
先延ばし癖の原因は、大きく2つに分けられます。
先延ばし癖を改善する際は、この2つの原因をいかに対処するかがポイントになるでしょう。
原因①:他のことを優先してしまう
他のことを優先するとは、取り組むべきことを間違えるということです。
判断基準がすり替わることにより、取り組むべきではないことを優先してしまいます。
例.夏休み終了前日の判断基準と行動
・自分を癒すためには?→ゲームを始める
・明日恥をかかないためには?→宿題に取り組む
・勉強にやる気を出すためには?→部屋を掃除する
判断基準をもとに、最も大きな利益を得られることを優先的に実行します。
そのため、他のことを優先してしまわないように、次の3つのことを実施することが有効です。
- 「取り組みたい行動」の優先順位を上げる
- 「取り組みたくない行動」の優先順位を下げる
- 自分にとって最も意味のある目的から判断基準を設ける
原因②:後で実行したほうが成果を出せると考えてしまう
後で実行したほうが成果を出せるとは、次のような思考のことを指しています。
- 効率思考:買い物行くついでに、郵便局に寄ろう
- 効果思考:いま謝っても意味なさそうだから、あとで謝ろう
先延ばしをしてしまうときは、確証バイアスに注意してください。
確証バイアスとは、望んでいるものを選ぶための理由探しをしてしまうことです。
確証バイアスによって望んでいるものを選ぶための判断基準にすり替わり、取り組むべきではない行動を実行してしまいます。
例.ダイエットのために食事制限している人の判断基準と行動
・太りにくいご飯は何か?→野菜を中心にしたヘルシーな食事
・もっとも元気のでるご飯は何か?→焼肉(ダイエットは先延ばし)
「今の自分よりも未来の自分のほうがよりよくできる」という感覚は、確証バイアスによる自己正当化の材料として使われやすい傾向があります。
後で実行したほうが成果を出せると感じた場合は「本当に?」と自問自答して、確証バイアスが働いていないかを確かめるとよいでしょう。
先延ばし癖を改善する基本的な手順
ここでは、先延ばし対策の基本的なステップをお伝えしていきます。
先延ばし癖を改善するときは、まずはここの基本的な手順から取り組んでみてください。
手順①:先延ばしは1回までと決める
「先延ばしは1回まで」というルールを決めることは、次の2つの理由から先延ばし癖の改善に役立ちます。
- 先延ばしにした回数を把握できるから
- 人はルールを破ることに強いストレスが生じるから
疲労やトラブルなどで、どうしても先延ばしをしてしまうものです。
先延ばしを何度も繰り返さないためにも、予防策としてこのルールを最初に決めておきましょう。
手順②:3つのタイミングを明確にする
「先延ばしは1回まで」というルールを決めたら、以下の3つのタイミングを設定します。
- 実施タイミング:いつから始めるのか
- 最終締切タイミング:自動的に決まる締切
- 自主的締切タイミング:自分で決めた締切
3つの締切のタイミングを作る理由は、以下の傾向が人にあるためです。
- 締切効果:締切を目前にすると集中力が高まる
- パーキンソンの法則:人は締切が過ぎるまで仕事が終わらない
締切があることで、実行への動機づけが高まります。
また、その締切までにやればいいのだと安心感も生じるため、気持ちに余裕を持つことにもつながるでしょう。
例.ダイエット
・実施タイミング:明日の夜からウォーキングを始める
・最終締切タイミング:7月15日の結婚式までに5kg減量する
・自主的締切タイミング:6月30日までに5kg減量する
準備中:計画の立て方
手順③:実施タイミングで思い出す工夫をする
ルールと締切を決めたら、実施タイミングを思い出すための工夫を施します。
どのようにルールや締切を決めたとしても、数日後どころか数時間後にはもう忘れている可能性が高いからです。
実施タイミングを思い出すための工夫には、次のような方法が挙げられます。
- スマートフォンでアラームをかける
- かならず見る場所にメモを貼っておく
- その時間に声をかけてもらうようにお願いする
また、実施タイミングを思い出したとき、「やる or やらない」で悩まないための工夫も施しましょう。
具体的には、次の項目をメモしておき、実施タイミングを思い出したときに見直すことをおすすめします。
- 理由:なぜそれをやるのか
- 方法:どうやってそれを実行するのか
- 締切:3つの締切はいつなのか
- ペナルティ:実行しないとどのような損失があるのか
準備中:面倒くさいの克服方法
先延ばし癖を改善する方法8選
上記の手順をおこなっても、先延ばし癖が改善しないこともあります。
ここでは、上記の手順をより効果的にするための方法をお伝えしていきます。
方法①:理想の未来を明確にする
自分にとって正しい判断基準を設けることは、先延ばし癖の改善に有効です。
「なんとなく先延ばしにする」から「AのためにBをする」というように、行動による影響を予測できるようになるためです。
自分にとって正しい判断基準を見つけるためには、自分にとっての理想の未来を描くことが役立ちます。
「その理想を実現するために今すべき行動」が判断基準になることで、自分にとって重要な行動を選べるようになるでしょう。
例.喧嘩した友達に対するアクション(判断基準→行動)
・正しいのはどっち?→相手を論破しようとする
・10年後も仲よくするには?→率先して相手に謝る
・自分が傷つかないためには?→時間が解決するのを待つ
準備中:理想の描き方
方法②:報酬と罰を設定する
報酬と罰を設定することで、動機づけが強まり行動意欲を高められます。
- 報酬:今すぐ実行したらいいことはあるのか?
- 罰:今すぐ実行しないと悪いことが起きるのか?
ただし、報酬と罰が大きすぎると「やらされている感」が強まります。
本来の目的がすり替わらないように、目的を思い出す機会を増やすようにしてください。
例.介護ボランティア
・目的:少しでも他者に貢献したいから
・強い報酬:お金をもらうために介護をする
・強い罰:叱られないために介護活動に参加する
準備中:仕事におけるやらされている感の解消方法
方法③:心理的ハードルと向き合う
心理的ハードルとは、選択を阻む要因のことです。
心理的ハードルが強ければ強いほど、先延ばしをすることにつながります。
例.歯医者に診察の予約をする
・お金を払うことへの抵抗感
・歯医者に治療することへの拒絶感
・混雑した病院へ行くことへのめんどくささ
・自分を癒す時間を浪費することへのもったいなさ
行動に伴う心理的ハードルは人によって異なります。
心理的ハードルによって行動が阻害されている場合は、その原因を明確にして、その原因と向き合うことが必要になるでしょう。
心理的ハードルが小さくなったら、小さなエネルギーでその行動を選べるようになります。
準備中:精神的な成長を遂げる5ステップ
方法④:宣言効果を使う
周囲の人に実行する内容を伝えることは、先延ばし癖の改善に有効です。
これは心理学で宣言効果と呼ばれており、次の2つの理由から実行力が向上するといわれています。
- モチベーションが高まる:目標に注意が向くことでやる気が上がる
- プレッシャーが強まる:「失敗したらバカにされる」というように失敗時の損失が大きくなる
宣言効果を効果的にするためには、「誰に伝えるか」と「何を伝えるか」が重要です。
「よりよい関係性を築きたい相手」に「自分が重要だと考える目標」を伝えることで実行力が向上するでしょう。
準備中:実行力の高め方
方法⑤:キャンペーン期間を用いる
「今回だけなら」という感覚を抱くことで、実行が容易になります。
キャンペーン期間はこの「今回だけなら」という感覚を抱く方法の1つであり、「〇〇の期間は△△をおこなう」という設定のことです。
例.自習するためのキャンペーン
・この1年だけは全リソースを勉強に費やす
・この1週間は遊びに誘われてもすべて断る
・この3日間は23時から朝までスマートフォンを封印する
このキャンペーン期間を効果的に活用するには、「機械的に実施する」ということを心がけることが欠かせません。
「キャンペーン期間だからやるんだ!」と心に決め、葛藤が生まれても「この期間だけだから」と無視するということです。
次のように悩んでしまうと、キャンペーン期間が動機として働かなくなり、いつものように先延ばしにしてしまいます。
- でもなぁ面倒くさいなぁ
- 納得していないのに頑張る必要ある?
- なんでがんばらなきゃいけないんだろう
キャンペーン期間を設定するときは、キャンペーン期間が必要な理由を自分が納得するまで検討してください。
そして1度その理由に納得したならば、「キャンペーン期間中はもうそのことについて悩まない」という覚悟を持ち、「機械的に実施する」ことを心がけてみてください。
方法⑥:コスト・ベネフィット診断を用いる
コスト・ベネフィット診断とは、「実行したい行動」と「阻害行動」において次の4つのことを比較検討するための手法です。
- 短期的なコスト:その行動によって短期的に失うもの
- 短期的なベネフィット:その行動によって短期的に得られるもの
- 長期的なコスト:その行動を繰り返すことによって長期的に失うもの
- 長期的なベネフィット:その行動を繰り返すことによって長期的に得られ
具体的なコスト・ベネフィット診断のステップは次の通りです。
- 「実行したい行動」と「阻害行動」を挙げる
- 「阻害行動」における短期的・長期的なコストとベネフィットを明確にする
- 「実行したい行動」における短期的・長期的なコストとベネフィットを明確にする
- 整理した情報を確認して、どのような選択をするかを検討する
- コスト・ベネフィット診断によって得られた気づきを振り返る
コスト・ベネフィット診断が先延ばし癖に効果的である理由として、時間割引の影響を抑えられることが挙げられます。
時間割引とは、得られる時間的な距離感によって、報酬や罰の価値が異なる認知バイアスのことです。
例.時間的距離と報酬の違い
・今1万円払うより来年1万円払うほうが損失感が少ない
・来年もらう1万円より今1万円もらうほうが報酬感が大きい
先延ばしにしやすいことは時間割引の影響を受けやすく、行動の優先順位が下がりやすいです。
- 阻害行動:短期的に快、長期的なベネフィットは少ない
- 実行したい行動:短期的に不快、長期的なベネフィットは多い
このことから、コスト・ベネフィット診断によって時間割引の影響を減らすことは、「実行したい行動」の選択を促し、先延ばし癖の改善が期待できます。
方法⑦:習慣化する
やるべきだと思っている行動を習慣にすることで、先延ばしを防げます。
習慣とは、ほぼ無意識的に実行してしまうような身体に馴染んだ次のような行動のことです。
- 話し方
- 歯を磨く
- 朝の準備の流れ
- お風呂に入ること
- 会社に出社すること
先延ばし癖に習慣化が効果的である理由として、他の選択肢を除外できることが挙げられます。
「会社から帰宅したらお風呂に入る」という習慣を持つ人は、「会社から帰宅したら何しようかなぁ」といちいち検討しません。
そのタイミングで他に選択肢があっても、習慣化された行動以外を検討しないため、優先順位に関わらずその行動を選べるのです。
とはいえ、習慣化には3ヵ月程度の時間を要し、習慣化されるまでは常に葛藤と戦わなければならないため、難易度が高い改善策だといえるでしょう。
しかし、もし習慣化に成功できれば先延ばし癖が改善され、きっと人生を大きく好転することができるはずです。
準備中:習慣化の方法
方法⑧:先延ばしにする自分と向き合う
先延ばしをしようとする自分を客観視することで、動機づけが強まり先延ばしが改善されます。
次の2つの思考によって、作業への意味づけが変化するためです。
- この作業は自分にとってどういう意味があるのか?
- この作業を回避する自分のままで私は私を誇れるのか?
先延ばしをするか悩んだとき、その自分を客観的に見つめてみてください。
そして「その自分がいい」のか「その自分は嫌」なのかを検討してみましょう。
少しでも先延ばしをする自分が嫌だと感じたならば、行動することへの意欲が生まれます。
先延ばし癖による5つの損失
ここでは、先延ばしをすることで生じるデメリットについてお伝えしていきます。
損失①:能力に相当する成果が出ない
「本当なら〇〇だったのに、先延ばしにしたから××になった」というように、先延ばしにしなければもっとよい成果を出せたという事例は多くあります。
たとえば、次のような事例です。
- 準備する時間を先延ばしたから、遅刻をしてしまった
- 勉強を先延ばしたから、テストで赤点を取ってしまった
- 寝る時間を先延ばしたから、1日不機嫌で過ごしてしまった
- 謝ることを先延ばしたから、関係が悪化して破局してしまった
- 仕事を先延ばしたから、低クオリティーな成果物を納品してしまった
先延ばし行為は自分のポテンシャルを最大限発揮することを妨げます。
欲しい結果が得られないばかりか、次の2つの評価をされる原因になるでしょう。
- 先延ばす不誠実さを持つ人
- クオリティーの低い成果を出す人
損失②:自己成長の機会が失われる
自己成長の機会とは、現在の時間を未来へと投資することです。
次の行動はどれも、今の自分が理想の未来に近づくために時間を費やしていると考えられます。
- 読書→博識な自分になるための投資
- 勉強→柔軟な発想を持つ自分になるための投資
- 筋トレ→自信を持った自分であるための投資
- ランニング→健康な状態で老後を迎えるための投資
しかし、自己成長のための行動は、辛く、苦しく、楽しくも面白くもない傾向があります。
先延ばしの対象になりやすく、つい疎かにしてしまうのもこのためです。
もっと成長できたはずだと後悔しないためには、自分にとって有意義な時間の使い方ができるように先延ばしを改善することが大きな課題になります。
準備中:自己成長とは
損失③:ストレスが増加する
掃除、勉強や仕事などを、「あぁ、面倒くさいなぁ」と先延ばしにすることってありますよね。
では、そのようにタスクを先延ばしにしている間、あなたは先延ばしにしたタスクのことをきれいさっぱり忘れられているでしょうか。
多くの人は、きれいさっぱり忘れるなんてことはできていないと思います。
「そのうちやらなきゃなぁ」と定期的に先延ばしにしたタスクのことを思い出し、そのタスクをやらなきゃいけないことに対してストレスが発生しているでしょう。
ラクをするために先延ばしにしても、実は先延ばしにしている間はストレスが増え続けています。
しかし、先延ばしにしていることがストレスの原因だと気づかないため、「なんだか集中できない」「なんだかイライラする」と不機嫌になったり、攻撃的になったりしてしまうのです。
原因がよくわからないストレスを感じている場合は、先延ばしにしているタスクがストレスを発生させているのかもしれません。
ストレスを解消するために気分転換をするのもよいですが、一度「やり残しリスト」を作って、先延ばしにしているタスクを消化してみてはいかがでしょうか。
準備中:元気になる方法
損失④:セルフイメージが悪化する
セルフイメージとは「自分のことを自分がどのように評価しているか」ということであり、心理学では自己概念と呼ばれています。
「私は優しい」「私は責任感がある」などの自分への印象がセルフイメージとして挙げられるでしょう。
セルフイメージは、「これこそが自分だ!」というように自分らしさを実感させる要素の1つです。
人はできる限りこのセルフイメージ通りに行動しようとし、セルフイメージと共通する自分に焦点を合わせようとします。
例.セルフイメージ→行動傾向→感情
・私は優しい→自分が優しいと思える行動を取りやすい→その経験を思い出して自分を誇らしく感じる
・私はいじわるだ→自分がいじわるだと思える行動を取りやすい→その経験から自己否定をする
先延ばしばかりしていると、次のようなセルフイメージになり、そのような行動を助長してしまいます。
セルフイメージが悪化すると目標達成能力だけではなく精神状態にも影響を及ぼすので、先延ばしはあまりよいものとはいえないでしょう。
- 私は不誠実である→約束を破ることばかりを思い出して自己否定する
- 私は先延ばしばかりする→先延ばしにする自分への自信を失い自己効力感が低下する
損失⑤:延長線上の未来から抜け出せない
延長線上の未来から抜け出すには、いつもとは異なる行動を始めて続けなければなりません。
未来は無限の可能性を秘めていますが、自分の行動が未来の状態に強い影響を及ぼすためです。
しかし、延長線上の未来から抜け出すための行動は、先延ばし癖の対象になりやすいです。
重要度の高い行動が先延ばされることで、延長線上の未来から抜け出せなくなります。
もしも延長線上の未来から抜け出したいと感じたら、新しい取り組みを実行する能力を高めることが必要です。
先延ばし癖を改善することは、新しい取り組みを実行する能力を高めることにつながるでしょう。
準備中:延長線上の未来を描く方法
先延ばし癖を改善する際の留意点
先延ばし癖を改善するにあたって、1つだけ留意点があります。
それは、先延ばし癖の原因がカウンセリング領域にあるかもしれないことです。
精神疾患や発達障害などが原因で先延ばしてしまう場合は、自分1人だけで対処しようとするとむしろ悪化する恐れがあります。
次のような感覚がある場合は、まずは精神科や心療内科に相談してみてください。
- 私は昔と変わってしまった
- 周りの人が簡単にできることが私にとって難しい
まとめ
先延ばし癖は、タスクの成果だけではなく、自分の人生を左右するほどの重要な課題です。
非効果的な先延ばしをやめるためにも、判断基準を明確にして重要なタスクを実行できるメンタルを手に入れましょう。
以下のような自分の情報に気づくことは、先延ばし癖を改善する最初の1歩となります。
先延ばしをしてしまったら、そのことに後悔するのではなく、これらの情報を手に入れるための機会だと捉え、前向きな経験へと昇華してみてください。
- 私は何を重要視しているのか
- いつもはどんな選択をするのか
- なぜそのような選択をするのか
- 本当はどんな未来を望んでいたのか